大切な方を見送り、遺品整理や手続きに追われる中で、
「形見分けを現金でするのは失礼にならないだろうか」
「金額の決め方やマナーがわからない」
と迷われている方は多くいます。
最近は、物をあまり持たない人が増え、「遺品より現金のほうが相手の負担にならないのでは?」と考えて現金で形見分けを検討するケースも珍しくありません。
しかし、形見分けには昔からの文化やルールもあり、相続や税金の問題が関わることもあるため、判断に迷うのは当然のことです。
本記事では、現金で形見分けをするのはマナーとして問題ないのか、金額の決め方、封筒の書き方、注意点、受け取る側の対応まで、初めての方でも迷わず判断できるよう分かりやすく解説します。
数分読んでいただくだけで、「どのように渡せば良いのか」「何に気を付ければよいのか」が整理でき、安心して形見分けを進められるようになるはずです。
故人を想うお気持ちを大切にしながら、相手にも丁寧に伝わる形見分けができますように。
豊富な実績を持つ遺品整理の専門店「株式会社ココロセイリ」の代表取締役社長
目次
形見分けを現金でするのはOK?結論
「形見分けを現金で行ってもいいのだろうか?」
こうした疑問は、とても自然なものです。
形見分けといえば故人の遺品を分けるというイメージが強いため、現金を渡す選択肢に不安を抱く方は少なくありません。
結論からお伝えすると、現金で形見分けを行うことは“可能”です。
ただし、意味や目的が遺品を渡す場合とは少し異なるため、正しく理解したうえで選択することが大切です。
このセクションでは、現金での形見分けが認められる理由と、近年増えている背景について分かりやすく解説します。
現金でも可能だが本来の形見とは異なる
形見分けの本来の意味は、故人が大切にしていた品物を受け継ぎ、その人の存在や思い出を感じ続けることにあります。
そのため、現金は「形見」そのものではありません。
しかし、時代の変化とともに、形見分けの“形式”も柔軟に捉えられるようになりました。
遺品を持たない故人や、相手に負担をかけたくないという理由から現金が選ばれるケースも増えています。
現金で形見分けをすることは失礼でも誤りでもなく、故人の意向や遺族の判断によっては“正しい選択肢のひとつ”になります。
現金で行われるケースが増えている理由
現金の形見分けが増えている背景には、現代のライフスタイルが大きく関係しています。
物を多く持たないミニマル志向、使い捨て文化の浸透、家が狭い・物を増やしたくないといった価値観の広がりにより、遺品を受け取ることに負担を感じる人が多くなりました。
また、故人の私物が少なかったり、価値のある遺品がない場合には現金が現実的な代替となります。
「遺品を渡すより、現金なら負担にならないだろう」と配慮して現金が選ばれる場面も少なくありません。
現金の形見分けは、あくまで“故人への思いを託す行為のひとつ”として広がってきた方法なのです。
現金で形見分けする際の基本マナー
現金で形見分けを行う場合、遺品とは違うため「どう渡せば失礼にならないのか」「どんな準備が必要なのか」と迷ってしまいますよね。
形見分けはお祝い事とは性質が異なるため、一般的な贈り物のマナーとは明確な違いがあります。
ここでは、金額の決め方から封筒の選び方、渡すときの言葉まで、相手に余計な負担をかけず丁寧に気持ちを伝えるための基本マナーを分かりやすく整理してご紹介します。
金額の決め方(相場はなし/負担にならない金額)
形見分けの現金には「相場」が存在しません。
本来の形見は“金銭的価値はないが、思いがこもった品”を渡すため、現金の場合も高額にする必要はありません。
むしろ、受け取る人が気を遣わないよう、負担にならない金額を選ぶことが大切です。
数千円〜数万円程度を目安に、遺族間で相談して決めるのが最も自然です。
故人が明確に希望していた場合を除き、大きな金額を包むのは控えるほうが無難でしょう。
大切なのは金額ではなく、故人を偲び「気持ちを託すこと」にあります。
封筒・表書きの書き方(仏式・神道)
現金をそのまま渡すのは失礼にあたるため、必ず白無地の封筒に入れて渡します。
水引のついた香典袋は弔事の“贈り物”と誤解されることがあるので使用しません。
表書きは宗教によって異なり、次のように書くのが一般的です。
仏式:「遺品」
神道:「偲び草(しのびぐさ)」
封筒はシンプルで構いませんが、故人の気持ちを静かに伝えるという意味で白い封筒が最適です。
受け取る相手の混乱を避けるためにも、必ず表書きを記入しておくと丁寧な印象になります。
渡し方と添える言葉(例文)
現金の形見分けは、できるだけ直接会って手渡しするのが基本です。
手渡しが難しい場合は、事前に必ず連絡を入れ、相手の了承を得てから郵送します。
このとき、単なる「お金の受け渡し」にならないよう、故人の思いを丁寧に添えることが大切です。
渡す際の例文は次のようになります。
例文
「形見分けの品がほとんど残っておらず、故人の意向もあり、このような形でお気持ちをお渡しすることとなりました。お受け取りいただけますと幸いです。」
特別なあいさつは不要ですが、形見分けであることが穏やかに伝わる表現を選ぶと、相手も受け取りやすくなります。
現金形見分けの注意点(相続・税金)
現金での形見分けは比較的シンプルに思えますが、実は「相続財産に含まれる」「贈与税がかかる可能性がある」といった法的なポイントに注意が必要です。
知らずに渡してしまうと、後から相続人同士のトラブルにつながったり、受け取った側が税務上の負担を抱えてしまうこともあります。
ここでは、現金形見分けで特に気をつけたい3つの注意点を、初めての方にもわかりやすく解説します。
110万円を超えると課税対象
形見分けは“気持ちの伝達”ではありますが、法律上は「贈与」にあたる可能性があります。
特に現金の場合は金額がはっきりしているため、年間110万円を超えると贈与税の対象になります。
- 1回の金額ではなく
- その年に受け取った贈与の総額で判断される点
は見落とされがちな部分です。
高額になりそうな場合は、後の申告の必要性も含めて、相手の負担にならない範囲で調整することが大切です。
相続人全員の同意が必要
そのため、たとえ善意であっても、相続人の了承を得ないまま現金を形見分けとして渡すと、トラブルにつながることがあります。
たとえば、
- 「特定の人にだけ現金を渡した」と誤解される
- 「勝手に遺産を減らした」と責められる
- 後から相続内容が覆る
などの問題が起きやすくなります。
現金形見分けをする場合は、必ず相続人同士で話し合い、「この金額なら問題ない」と合意を得たうえで行うのが安心です。
遺産分割前に渡すリスク
遺産分割前に現金を渡してしまうと、
- 相続内容の再計算が必要になる
- 「その現金は誰の取り分だったのか」が曖昧になる
- 税金の扱いが変わる
など、手続きが複雑化します。
特に、遺産分割協議書に記載されていない形で現金が動いてしまうと、のちにトラブルが発生しやすくなります。
そのため、形見分けは必ず遺産分割のあとに行うことが推奨されます。
受け取る側のマナー
現金での形見分けは、受け取る側にとっても「どう扱えばよいのか」「お返しは必要なのか」と悩みやすい場面が多いものです。
特に現金は“物”とは違って扱い方がわかりにくく、遺族への気遣いも必要になります。
ここでは、受け取った側が失礼なく、そして自分の気持ちを大切にしながら対応できるよう、最低限のマナーをわかりやすくまとめました。
お礼は必要?適切な伝え方
形見分けは弔事にあたるため、お返しの品を渡す必要はありません。
しかし、遺族の配慮に対して「受け取りました」「お気遣いありがとうございます」と伝えることは大切です。
電話でもメールでも構いませんが、気持ちを伝える場合は、
次のような一言がほどよい丁寧さになります。
〈例文〉
「このたびは形見をお分けいただき、ありがとうございます。故人を思い出し、大切にさせていただきます。」
「お気遣いをいただきありがとうございます。いただいたお気持ちは大切に受けとめ、故人を偲びたいと思います。」
簡潔でよいので、重くなりすぎない表現が気持ちよく伝わります。
受け取りを断る場合の丁寧な言い方
「どうしても現金を受け取ることに抵抗がある」
「気持ちの面で負担が大きい」
と感じる場合は、辞退しても失礼にはあたりません。
ただし、遺族は善意で渡しているため、感謝を示しながら丁寧にお断りしましょう。
〈断り方の例文〉
「お気持ちはありがたく頂戴いたしますが、現金は私には重く感じてしまうため、お断りさせてください。故人のことは変わらず心に留めておきます。」
「お気遣いに感謝しております。ただ、現金を受け取ることに戸惑いがあり、お気持ちだけ頂戴できればと思います。」
穏やかに、相手を否定しない言い回しを大切にすると、お互いに嫌な思いをせずに済みます。
現金形見分けの使い道の例
受け取った現金は、「好きに使ってはいけない」と思いがちですが、実は明確なルールはありません。
ただし多くの方が、故人を思い出せるものに使っています。
たとえば、
- 故人が好きだった花を買う
- 手元供養のための小さな仏具を購入する
- 故人と縁のある神社・お寺へお参りに行く
- 思い出の写真を飾るためのフレームを買う
- 万年筆や小物など、長く使えるものを買う
- そのまま封筒に入れて保管する
などさまざまです。
大切なのは、「あなた自身が無理なく気持ちよく受け取れる形にすること」。
受け取った現金を“気持ちの象徴”として扱うことが、最大の供養になります。
現金での形見分けが向いているケース・避けるべきケース
現金での形見分けは、「品物がないときの代替手段」として便利に思えますが、誰にでも適しているわけではありません。
状況や相手との関係によっては、負担を与えてしまったり、思わぬトラブルを招くこともあります。
ここでは、現金での形見分けが向いているケースと、反対に避けたほうが良いケースを整理し、迷ったときの判断材料をわかりやすく解説します。
適しているケース(遺品が少ない・相手に配慮したい)
現金での形見分けが適しているのは、次のような状況が多いです。
遺品として渡せる品物がほとんど残っていない場合
故人が生前に持ち物を整理していた、高価な物や形見と呼べる物がない、というケースは増えています。
そのため、現金を「代わりの気持ち」として渡すのは意味のある選択です。
受け取る相手に気をつかわせたくない場合
物の形見は、置き場所や管理の負担が伴います。
「物を受け取ると気が重いかも」と感じる相手には、現金のほうがかえって親切なこともあります。
故人が現金での形見を望んでいた場合
遺言や口頭での希望があるなら、その意志を尊重することが最優先です。
遠方の人に形見を贈るとき
物を送ると送料や管理の負担がかかるため、現金のほうがスムーズで実用的です。
このように、現金の形見分けは「相手への気遣い」から選ばれるケースが多く、現代の生活スタイルにも適しています。
避けた方が良いケース(高額・相続が複雑)
一方で、現金の形見分けが向かないケースもはっきり存在します。
金額が高額になりそうな場合
高額になると相続税や贈与税の問題が出てきます。
受け取る側が税負担を抱えることになるため、形見としては不適切です。
相続人の関係が複雑なとき
相続トラブルが起こりやすい場面では、現金を動かすことで火種が大きくなりかねません。
現金は特に「不公平」の印象を与えやすいため、慎重な判断が必要です。
相手が現金を受け取ることに抵抗があると考えられる場合
特に年配の方や、儀礼を重んじる方の中には「現金は形見として違和感がある」という人もいます。
相手の価値観を尊重し、無理に渡すのは避けましょう。
故人が物の形見分けを望んでいたケース
残された遺品に強い思い入れがあった場合、現金のみの形見では意図とズレることがあります。
まとめ(現金形見分けは可能だが慎重に)
形見分けを現金で行うことは、マナー違反ではありません。
時代とともに価値観が変わり、遺品を負担に感じる人が増えた今、現金での形見分けはむしろ配慮ある選択になることもあります。
ただし、現金は“相続財産”でもあるため、金額・相続人の同意・税金といった問題に注意が必要です。
また、受け取る側が気をつかう場合もあるため、相手の気持ちを尊重しながら進めることが大切です。
この記事の要点は次の通りです。
- 現金で形見分けは可能だが、本来の「形見」とは意味が少し異なる
- 金額に相場はないが、相手が負担に感じない額にするのが基本
- 110万円を超えると贈与税の対象となるため注意
- 相続人全員の同意が必要で、遺産分割後に渡すのが安全
- 封筒は白無地、表書きは「遺品」「偲び草」が一般的
- 受け取る側のお礼は不要。どうしても難しい場合は丁寧に断ってOK
- 相手や状況によっては、現金よりも物の形見が向いているケースもある
現金での形見分けは、あくまで「故人の気持ちを伝える手段のひとつ」にすぎません。
何より大切なのは、形ではなく“故人を想う気持ち”です。
負担のない方法を選びながら、心のこもった形見分けができることを願っています。
豊富な実績を持つ遺品整理の専門店「株式会社ココロセイリ」の代表取締役社長
